寂しさの柩

 

 寂し過ぎて、声すら出ない。

 哀し過ぎて、涙すら出ない。

 それでも、君がいてくれたのなら・・・幸せだった。

 なのに、

「アス・・・ラン・・・」

 何故。

 

――――祭壇の恙――――

 

 別れるしかなかった、十三の春。

 あの時は、戦場で再会するなんて思っていなくて。

 本当に――――彼が言う様に、すぐに逢えると思っていた。

 だけど。

 運命は時に残酷で。

『キ、ラ・・・』

『・・・アス、ラン・・・?』

 最悪な事に一番逢いたくない場所、形で再会してしまった。

 それは、

「キラ・・・、キラ・・・大丈夫?」

 確実に僕の精神を狂わせて。

 

 ――――嫌だ。アスラン。

 

 気が付けば、

「あなたを守るから・・・」

 私を守って。あいつら、皆・・・殺して。

「フレイ・・・」

 もう一歩も下がれない所まで来てしまっていた。

 

*   *   *

 

 もっと狂って。

 そして、私に堕ちて。

 皆・・・殺してよ。

 キラ・・・。

 

 ――――愛しているわ。

 

 私を守って。

 

 

 彼は、決して私の名前を呼ばない。

 加太を重ねている間、いつも“アスラン”と紡いで。

 絶対に此方を見ようとはしない。

 それが悔しくて。

「キラ・・・、キラ・・・」

 何度も名前を呼んで、

「アス・・・好きだよ・・・」

 唇を重ね、言葉を封じた。

 けれど。

 それでも、キラは私を見ずに。

 

――――こっちを見て・・・――――

 知らない声で。

 知らない顔で。

 ただ、アスラン・・・と。

 幾度も呼んでいた。

 

*   *   *

 

 何も聞こえない。

 何も見えない。

 今の僕に見えるのは、

 

 ――――僕を・・・抱き締めて・・・。

 

 彼の背中だけ。

 

――――寂しさの柩――――

 

 彼女・・・フレイは僕の名前を口にして。

 こっちを向いて?

 私を見て?

 そう囁くけど、

(何を・・・見ろと言うの・・・)

 アスランのいない空間は暗いだけで、何も見えずに。

 温かな腕に抱かれながら、軽く瞬きをして、

――――」

 そっと瞳を閉じた。

 

――――悲しくて、淋しくて――――

 

 此処は寂しさの柩。

 暗くて、狭くて。

 身動き一つ出来ない場所。

 だから、早く。

 助けに来て。

 待っているから・・・。

 

*   *   *

 

 拒絶しないで。

 あなたの為に飾ったの。

 綺麗でしょう・・・。

 ねぇ・・・、コレ、あなたの柩よ。

 受け取って・・・。

 

――――哀しさの装飾――――

 

 他の人を求める彼は必要ないの。

 違うものを欲する姿は見たくないの。

 そんな姿(もの)見るぐらいなら、

「キラ・・・愛しているわ・・・」

 殺して上げる。

 そうして、縛り付けて。

 久遠に私を囚にして。

 

 ――――キラ・・・。

 

 愛しい人。

 大切な人。

 ずっと傍にいるから。

 

 ――――大好きよ。

 

 ほら・・・。

 この想いに、

「・・・アス、ラン・・・」

 気付きなさいよ。

 

END.

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